【飯田信義さんインタビューVol.5】取材に行って取材をしなかった日

切り絵作家インタビュー

流山本町に足を運んだ人は、お店の一角、ギャラリー、民家の軒先などで、切り絵や切り絵行灯を目にしたことがあると思います。
そこには世界にたった一つしかない、切り絵で描かれた流山の風景が描かれています。
自分の「好き・得意」がまちのためになっていることを体現している、流山在住の切り絵作家飯田信義さんにmachiminスタッフがインタビューしました。

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文 渡部直子(ママの大事なノート編集長)

切り絵との出会い

私は切り絵が好きだ。

「モチモチの木」という絵本の挿絵で初めて切り絵の存在を知った。
明るく柔らかなカラーで彩られた可愛らしい絵本が多い中、黒を基調とした切り絵の挿絵は幼い私に衝撃を与えた。どこか恐ろしかった。少し切ない物語ではあったものの、ホラーの要素は一切ない。それなのに、この絵本の何がそんなに恐ろしかったのだろう。
年齢を重ねた今なら少し分かる気がする。
この絵本の挿絵である切り絵の黒は吸い込まれそうなほど黒く、力強く、ゾクリとするほど美しかったのだ。

小学校4年生になった私は校内の切り絵クラブに一年間所属した。間違いなくこの絵本の影響だ。しかしそこから20年以上切り絵には触れてこなかった。
ただ、心が不安定になった時は無性に切り絵をしたくなった。
実際、初めての出産を間近に控えていた時も、新型コロナウイルスの影響で外出自粛生活を余儀なくされた時も、何十年かぶりに取りかかった切り絵は心を無にし、整えてくれた。

あの飯田さんに会える!

私にとって「ゾクリとするほど美しい」切り絵は、流山本町に並ぶ切り絵行灯を見た時からまた違うものになった。ノスタルジックにじんわりと灯る切り絵行灯は、染みこむようにあたたかく美しかった。切り絵の楽しみ方や魅せ方の自由さに心が弾んだ。
いつか自分で図案を描けるようになりたいと思い始めたのもちょうどこの頃だ。
私の中の切り絵の概念を大きく広げるきっかけとなった切り絵行灯。
その切り絵行灯を手がけられた切り絵作家の飯田信義さんとお話しをする機会に恵まれた。
ずっとお会いしたかった飯田さんにお聞きしたいことは山ほどある。次から次にあふれてくる質問事項をなんとか整理して、飯田さんの言葉を聞き漏らすことのないようPCとメモ帳、レコーダーを持参の上インタビュー当日を迎えた。

インタビューだということを忘れた時間

飯田さんにお会いした私は、挨拶もそこそこに前傾姿勢で話し出していた。
PCを開くこともなければメモをとることも、写真を撮ることさえもしなかった。

「切り絵で絵本をつくりたい」

「様々な角度から楽しめる立体切り絵に挑戦したい」

「一つの切り絵に様々な背景を掛け合わせてみたい」

「壁一面を大きな切り絵で飾ってみたい」

私の口から出る言葉は自分のしたいことばかり。
そうか、私はこんなことを考えていたのか、と口に出して初めて気づく。

飯田さんは、私が切り絵を通してやってみたいと思っていることを一(いち)説明すると、十(じゅう)分かってくれた。それが嬉しくて嬉しくて、どうしても話すことを止められなかった。
飯田さんが「そうだね」「こんなのも素敵だね」「色を施すにはこんな方法もある」「切り絵で使う紙にはこんなのもある」と同じ目線で言葉を返してくれる度に私は舞い上がった。
自分の好きなことを話せて、それを分かってくれる人がいることはこんなにも嬉しくて幸せなことだったのか。

インタビューだということを完全に忘れていた。

飯田さんと話しながら、私は自分の好きなシールや漫画について永遠に話していられた小学生時代を思い出していたのだ。

今年の夏ならではの企画

「休止になった花火大会の代わりに、切り絵で大きな花火をつくれたら素敵だなと思っていたんです」
花火を表現した飯田さんの切り絵作品を見ていたら、つい口に出てしまっていた。
それは自分の中だけでぼんやりと抱えていた思い。
調子に乗って大それたことを言ってしまった、と思ったが、飯田さんの笑顔と「いいねぇ」という一言から話は一気に広がった。気づいた時にはその場に居合わせたみんなが会話に参加して「アレもしたい」「コレもしたい」と言い合っている状態だった。
切り絵花火の話は尽きなかった。

最後まで鞄から出されることもなかったPCとメモ帳、そしてレコーダー。
取材者としては間違いなく失格だったが、反省を上回る「楽しかった」という思い。
飯田さんと話して見つけた新たな自分。
自分のことを引っ込み思案だと思っていたが、気のせいだったようだ。
そしてどうやら私は自分で思っているよりも深く広く切り絵が好きなようだ。

この取材の後、すぐに話はまとまり巨大な切り絵花火を作ることが具体的に決まった。
一人ぼんやりと抱いていた思いが、飯田さんの思い、そこにいたみんなの思いと重なり実現しようとしている。

この夏は、心を整えるためだけではなく心を弾ませるための切り絵に挑戦したい。
ひとりではなく、みんなで。
今年の夏だからこその特別な切り絵時間を過ごせそうな気がしている。

丁字屋と花火(2009年)



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