【飯田信義さんインタビューVol.2】一枚の紙で流山を表現する切り絵作家

切り絵作家インタビュー

流山本町に足を運んだ人は、お店の一角、ギャラリー、民家の軒先などで、切り絵や切り絵行灯を目にしたことがあると思います。
そこには世界にたった一つしかない、切り絵で描かれた流山の風景が描かれています。
自分の「好き・得意」がまちのためになっていることを体現している、流山在住の切り絵作家飯田信義さんにmachiminスタッフがインタビューしました。

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文 はしもとあや(まんが家、イラストレーター、ライター、machiminスタッフ)

文章を書いたり、絵を描いたり、音楽を奏でたりと何かを表現する方法は人によって様々です。飯田さんは切り絵で流山を表現していらっしゃいますが、黒と白で作られた一見シンプルな作品でも実は色々な拘りが隠されていました。

飯田さんの切り絵作りのお話を伺っていると、共感することや新たな発見があり、さらに作品を鑑賞する楽しみ方が増えました。

切り絵の魅力とは?

切り絵のどんなところがお好きですか?
そう飯田さんにお聞きしたところ、こんな返答が。

「“黒”があること。黒は奥行きや深みを表現できるから

飯田さんの切り絵は、黒いラシャ紙をデザイン通りに切り抜き、後ろに白いワトソン紙を重ねることで、1枚の絵の中に黒い部分と白い部分を作っています。ワトソン紙に彩色すればカラー作品にもなります。どんなに繊細に切り抜いても黒いラシャ紙は1枚のまま途切れずつながっており、このこだわりは飯田さんならでは。ご自身は切り絵を「一刀彫り」に喩えられています。

切り絵の中の黒の役割

浅間神社の御神輿

飯田さんがこれまでに作られた200枚以上の切り絵の中で5本の指に入るお気に入りである「浅間神社の御神輿の切り絵」は、1枚の絵の中に異なる季節と風景が表現されています。実在する風景を1枚絵で表現することが多い飯田さんの作品の中では、少し異色かもしれません。上半分は春、桜が散る神社の本堂が描かれており、下半分は夏、御神輿を担ぐたくさんの人々が表現され、更に上半分と下半分の間は“黒”で間仕切りされています。

この間仕切りを、“黒”ではなく“白”にしてもよかったのでは?という話も出ましたが、飯田さんは“黒”にすることを選ばれたそうです。私もここは黒がいいなと感じました。

個人的な感覚ですが、切り絵における“白”は、光が当たって明るい部分であったり、モチーフが明らかになっている感覚がありますが、“黒”はそこに何があるか分からない、見る人に想像させる余地を残している気がします。「1枚の絵の中に別の季節が共存する違和感を調整するために黒を使っているのかも?」「静と動の対比表現なのかも?」と想像させてくれ、つまりこれが飯田さんの仰る“黒”の奥行きや深みなのではないかと、私は考えました。

繰り返しの確認作業で生まれる黒と白のバランス

切り絵の中に“黒”をどのくらいの範囲作るかは「何となくの感覚で決めている」とのことで、それ分かる!と嬉しくなりました。飯田さんは切りながら、時たま、透かしたり逆にしたりして具合を見て、黒すぎると思うときは範囲を調整するそうです。絵やデザインの印象というのは見た瞬間で決まるので、作ることに没頭しながらも、ぱっと見た瞬間自身が抱く客観的な印象を逃さず、しかも何度も確認しながら、バランスを調節していくということなのではないかと思います。私自身も制作の際、1人よがりにならないよう気をつける意味で、この作業を繰り返します。美術やデザインの学校を出られたわけではないと思うので、その「何となくの感覚」というのが、飯田さんの場合はとても庶民的なんだろうなと感じました。

親しみやすい飯田さんの作品

私が飯田さんの“黒”で面白いと思うのは、だいたい想像がつく、つまり分かりやすいところ。例えば「この黒は人の死を意味しているのかもしれない」とか、そういう、解釈を相手に任せる自由さまでは、飯田さんの“黒”にはありません。「おそらく上下を隔てているのだろう」と、気軽に想像できる“黒”なのです。

これは、実在するものを表現しているからこそだと思いますが、分かりやすさは見る側の受け入れやすさにつながり、素晴らしい効果だなと感じます。“黒”と“白”という色使いや版画らしさなど、日本的だから受け入れやすいというのもあると思います、海外の方が見たらまた違う魅力があるのかも。

もう1つ面白かった点は、“黒”にとても拘っておられること。それこそ、単なる“黒”なのにです。一刀彫りであれば、彫った部分の色合いがが経年で変化することもあるのではないかと思いますが、切り絵は切るか残すか、白か黒か、だけです。これだけのシンプルさに惹かれて作り続けるということは、やはり表現することや切り絵が相当お好きなんだろうと思います。

飯田信義さんインタビューVol.3はコチラ↓

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